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犯罪不安社会(光文社新書) [本(法律と犯罪]

『犯罪不安社会/浜井浩一・芹沢一也/光文社新書/2006』
著者:矯正施設勤務した刑事政策学者と近代日本思想史研究家
評価:日本を正しく知る良書・世界で一番安全で治安悪化の事実なし

警察発表統計の難しさ。
99年10月の桶川ストーカー事件で警察活動方針の転換、
いわゆる前さばきがなくなり、犯罪記録件数が増加した。
それ以前の80年代後半にも窃盗検挙数が急低下があったが、
これは警察庁長官が自転車窃盗より重大事件に重点指示したため。
警察統計は取り方が変化するため、日本の治安状況を反映しないのだ。

日本のマスコミで使われるのはほとんどが警察統計だが、
それよりも客観的なデータがある。
それが厚生労働省の人口動態統計。
ここに加害による傷害と死亡人員の統計がある。
すると、現在まで一貫して他殺死亡者は減少傾向にあり、
子ども被害についても同じで、
客観統計から治安悪化は全く認められないことがわかる。

面白いのは体感治安。
アンケートでは、
日本全体の犯罪がとても増えたとする人が49%もいるのに、
自分の居住地域の犯罪がとても増えたとする人は3.8%しかいない。
このギャップを作り出しているのはマスコミの犯罪報道である。
みなマスコミの作り出した幻影におびえているのだ。

犯罪は今も昔も変わらない。
理解不可能な猟奇犯罪もいつの時代にもあった。
ただし、変わったこともある。
それが犯罪被害者の登場である。

以前は犯罪が起こると加害者に注目したのが、
今や被害者に注目するようになったのだ。
加害者がなぜこんなことをしたのか考えるより、
被害者の悲しみへと重点が移動したのである。

コミュニティ復活が相互不信社会を生むという指摘。
しかし、事例だけで適切なデータがない。
これでは筆者らが嫌う、
事例を強調してミスリーディングするマスコミの手法そのままである。
統計など客観データの収集が望まれるところだ。

ホームレスの生活保護は住所がなければ受け付けられないらしい。
住所がないからホームレスなのに矛盾している。
行政が正しく動けるように立法すべきであろう。

「割れ窓理論」は自立困難な受刑者を再犯へと追い込むという。
しかし本来「割れ窓理論」は人の目を意識させることであり、
理論の間違いというより運用の間違いではないだろうか?

刑務所は健康ならできる作業ができない人たちばかりになった。
社会が不要になった人材を刑務所に捨てているという。
老人、障害者、外国人の比率が高いのである。
本では、こうした刑務所の様子がシュールに描かれている。

ジョン・ブレイスウェイト
犯罪増加をともなうことなく経済成長したのは日本だけ。
それは、アメリカの裁判では謝罪すると
罪を認めたとして刑罰が重くなるが、
日本では反省の態度として刑の減軽の対象となるから。

日本の今までの治安システムの成功について、
よく考えてみるべきだろう。

また無期刑は15年で出てくるというのは嘘。
無期刑は運営上終身刑化しているようだ。

日本の犯罪率の低さはどこにあるのか考えてみよう。

古代中国、斉の国の宰相であった曹参は後任の人に、
市(繁華街)と獄(刑務所)をあまり厳しく取り締まらないよう述べた。
この二つは悪人の居場所であり、
悪人の居場所を失わせるのはむしろ危険だからである。

この曹参の政治方針を実現していたのが日本社会である。
『安全神話崩壊のパラドックス/河合幹雄/岩波書店/2004』
では、ヤクザの世界とカタギの世界が分離することで、
日本の治安は高められていたことが指摘されている。
日本は悪人を許容することができたから治安が良かったのである。


・今日の一言
日本は世界で一番安全な国である。
Japan is the safest country in the world.
일본은 세계에서 제일 안전한 나라이다.
日本是世界上最安全的国家。

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新版 わたしたちと裁判(岩波ジュニア新書) [本(法律と犯罪]

『新版 わたしたちと裁判』
後藤昭(法学者)
岩波ジュニア新書(2006)


法律の実行部分がよくわかる良書。

中学校の丸刈り校則の裁判。
男子生徒は丸刈り、外出時も制服か体操服に反対したのだ。
一昔前とはいえ、それは嫌だよなあ。
外出時の服装制限なんて人権問題だし。

少額訴訟事件は自由に傍聴できるらしい。
一度、見てみるとよい経験になるかも。

新しく始まる裁判員制度は、原則多数決、
ただし裁判官が一人も有罪と見なければ有罪とはならないという。
意外とよく考えられたシステムらしい。

・今日の一言
少額訴訟を傍聴してみよう。
Let's visit the local Small Claims Court
소액 소송을 방청해 보자.
试试旁听小额诉讼庭审吧。

タグ:後藤昭
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名誉毀損罪(平凡社新書) [本(法律と犯罪]

『名誉毀損罪』
浜辺陽一郎(弁護士)
平凡社新書(2005)


ネットに書く人間は必ず知るべき知識。

社会的評価を低める表現は
ほとんどが名誉毀損になる。
生きている人については
真実を述べても罰されることがある。
虚名でも保護されるのだ。

また管理責任というのがある。
ブログ、掲示板などでの差別発言は、
書き込み者本人だけでなく、
そのブログや掲示板の管理者にも責任が生じる。

最近、ネットで気になること。
掲示板やブログで、書き込みを削除したり制限したりするのを
言論の自由に反すると考える人がいるが、
これは全く間違いである。
差別発言などは削除しなければならないのである。
放置することが許されないのだ。
荒らしも犯罪たり得るし、荒らしを放置するのも犯罪になり得る。

掲示板もブログも公開している以上は公共の場であり、
公共放送に準ずると考えねばならない。
Googleで検索されたり、キャッシュに残ることを忘れてはならない。
管理できないのなら、アクセス制限するのが管理人の責務であり、
怠るならば、刑事的にも処罰される可能性があるのだ。

タグ:浜辺陽一郎
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弟を殺した彼と、僕。 ~ 修復的司法への道 [本(法律と犯罪]

『弟を殺した彼と、僕。/原田正治/ポプラ社/2004』
著者:殺人事件被害者遺族
評価:死刑問題を考える資料に・被害者不在の裁判への異議の書

光市母子殺害事件についてブログで語られるのを読むと、
かなりの確率でこの本が挙げられている。
しかし、相当に構造が違う。とても同じレベルで語ることはできない。
被害者は弟であること、
犯人と著者が顔見知りであること、
計画的な保険金殺人であること、
犯人の三人目の殺人であること、
犯人が反省し月に何通も手紙を書いて送っていること、
犯人の長男が自殺したこと。

光市母子殺害事件について言えば、
一般に知られている事実関係を見る限り
その罪が極刑に相当することはそう問題ないと思われる。
極刑が死刑なら死刑、無期懲役なら無期懲役だろう。

問題は、死刑制度そのものの必要性だ。
死刑の必要性について考えるには、刑罰の効果を考える必要がある。
刑罰の効果はおよそ三種類考えられる。

1.刑罰により犯人を更正させる教育効果。
2.刑罰により社会における犯罪を抑制する効果。
3.刑罰により被害者の感情を納得させる効果。

1の教育効果は、死刑では放棄される。
これははっきりと死刑の欠点である。

2は意外に難しい。
死刑に犯罪抑止効果があるかどうか。
これはその社会の状態により違う。
フィリピンでは死刑廃止により犯罪が増えたとされ、
死刑が復活してしまった。
果たして日本は死刑廃止が犯罪数を増やしてしまう社会か、
そうでないのかの分析が必要となる。

3についても難しい。
殺人事件では被害者は死んでいる。納得は不可能である。
遺族や周囲の感情が問題となる。
遺族には、この本の著者のように死刑に反対する人もいれば
死刑を望む人もいる。
周囲の人間には、人間の命が平等というなら、
命を奪ったものの命は奪うべきと考える人もいるだろう。

この著者の場合、加害者と面会し死刑に反対する道を選んだ。
美しくはあるが困難な道である。
一体、この著者のように犯罪事件に真っ向から向き合おうとする遺族が
どれだけいるだろうか。
みなこのように生きていけるわけではない。
著者もその代償に仕事や家族を失っている。

被害者遺族にはさっさとヤツに死んでもらってこのことを忘れたい、
そういう人も多いだろう。
忘れるために殺して欲しいという感覚があると思う。
やり直すための儀式として死刑を望むと言えるかもしれない。
いつか社会に戻ってくるかもしれないというのでは区切りにならない。
これは人類学的研究を調べておく必要がある。

もちろん、死刑にすることで満足するかは疑問である。
しかし感情というのは、0か1かではない。
度合いの問題である。
死刑になれば少しは気がおさまるが、生きているのは許せない、
そう感じるとしても不思議ではない。

この著者はそれとは違う方向を選び取った。
加害者と対面し会話する道を選んだのである。
真に被害者が納得できる、被害者のかかわった司法を求めたのである。

これは最近の一つの潮流である、修復的司法であろう。
修復的司法とは、加害者と被害者が語り合い将来を考えることで、
新しい解決を目指すのである。

多くの裁判や紛争でも、
被害者と加害者が集まって顔を合わせることができれば、
その時点で問題はほとんど解決するという。

この問題については、
修復的司法の有効性をもう少し調べてみようと思う。
修復的司法には、1と3について大きく変える力があるかもしれない。

死刑については、冤罪の問題が挙がることがある。
冤罪で死刑になると取り返しがつかないというのだが、
これは少し疑問である。
懲役20年だとしても失われた時間は戻ってこない。
取り返しがつかないということでは同じである。
冤罪の問題は、死刑の有無ではなく司法や警察の問題と考える。

あと、この本の著者については、
ストックホルム・シンドロームとの比較も考えるべきかもしれない。

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