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[発音] なぜ正しく発音できてこそよく聞き取れるのか [語学学習記録]

●カテゴリー知覚
機械を使って二つの音の間をなだらかに等量の連続変化させる。例えば、ア⇒エなど。このとき聞き手はア⇒エへとなだらかな変化を感じず、あるところで突然アがエと切り替わって聞こえる。これをカテゴリー知覚という。

注意すべき点は、このア⇒エへと変化する無数の種類の音を聴いているのに、それを私たちはアとエの二種類の音にしか聞き取らないということである。ア⇒エと切り替わるところに境界線があり、そこで音が急変し、その内側はすべて同じアという音に聞こえ、外側はすべてエという音に聞こえるということである。境界線の内側はすべて同じ音として聞き取るのである。

これはもちろん、あらゆる近接する音素で同じである。私は以前に老師に中国語の声調の三声が二声になっているのを注意されたが、そのとき私はもろちん自分の二声とは全く違う音として三声を発音しており、"あっしまった"というような間違いではなかった。すなわち、私の三声~二声の境界線の位置が老師よりも二声の方にずれていたため、老師に注意を受けたわけである。

境界線の内側はすべて同じ音であるから、間違った音を出しても、自分では完全に正しい音を出していると認識してしまう。ゆえにネイティヴに発音をチェックしてもらうことが必要となる。

日本人は日本語の境界線で音を分類し、中国人は中国語の境界線で音を分類する。日本語の濁音は中国語ではすべて無気音の境界線の内側にある。古い中国のテキストには有気音=清音、無気音=濁音としているものもあるほどだ。

ときどき中国語の濁音を気にする人がいるが、中国語には濁音-清音の概念はなく、中国人は濁音を聞いても、無気音の一種に過ぎず、それほど気にしない。ヒンディー語の有声有気音を聞くと中国人は無気音と判断する。二声と三声を濁音で発音する中国人はたくさんいる。

韓国語にも似た現象がある。韓国語のYesは네"ネー"という発音だが、これを"デー"と発音する韓国人がいる。韓国人にとって、네、ネー、デーは同じ境界線の中にある同じ音だからである。

●アフォーダンス
認知科学では物自体は見えないし、音自体は聞こえないとされる。私たちが知覚し、区別できるのは、自己の行為の可能性であり、認知科学ではこれをアフォーダンスと呼ぶ。AとBが区別できるのは、AとBに対して異なる行動を選ぶことができるということなのである。

人間にとって境界線の内側の音はすべて同じなのは、それに対応する行為が一つ、その音を発声するという行為が一つだけあるからだ。そしてその音素と対立する音素との中間的に境界線がひかれる。そのため正しくない発音だと、境界線の位置がずれたところにひかれてしまう。多くの外国語の初心者は、日本語の境界線で代用してしまうことが多い。

音を聴いて識別するには、対照するものが必要である。私たちが言語音を聞いて識別するとき、記憶にある正しい音と比較するのではなく、自分の発音の運動のイメージと比較して聞き分ける。言語の聞き取りのときの脳活動を計測すると、ただ音を聞いているだけで運動をしているわけではないのにもにもかかわらず、発音の指示を出す前頭葉の運動連合野が活動することが知られている。

●聞き取りに必要なもの
そのため正しく発音できてこそ聞き取り能力も高くなる。語彙力があって正しく発音できる人は必ず高い聞き取り能力がある。逆に、知ってる単語を聞いてるのに聞き取れない人は、発音もダメである可能性が高い。

注意すべきことは、人は意外に母語の聞き取り能力を過剰評価していることだ。日本人がもし日本語のテレビドラマをディクテーションしても、完全に書き取るのはまず不可能である。興味のないものであったりしたら文脈がわからないし、収録されたものは子音が大きく崩れていて、生の音とは全く違うからである。子音とは口と舌の形、音源の遮蔽であるから、収録ではマイクまでの遮蔽物に影響されてしばしば子音が壊れるのである。

ネイティヴでも予備知識なしにドラマやニュースを2分以上完璧にディクテーションできる人はまずいない。これは私のプライベートレッスンでの実体験から断言できる。このことは聞き取りには語彙力が極めて重要だということである。

しかし語彙力が十分なのに聴き取れなければ、やはり発音が正しくできていないか点検すべきである。

●境界線を接する音素は何か
正しい発音を考えるとき役に立つのは"その音素と境界線を接する音素は何か"を考えること。中国語で例を挙げると、物(wu4)の発音で舌が後ろにあるのは、境界線を接する育(yu4)の発音のとき舌が前にあるから。物(wu4)の発音が強いタコ口(円唇)なのは、境界線を接する饿(e4)の発音が平口だから。

音素は弁別のために進化論的発達を遂げて棲み分けているため、本当の意味で似た音というものは存在せず、ある二つの音が似て聞こえるとすれば、その二つの音の発音方法が間違っている可能性が高い。

●LとRについて
例えば、日本人の苦手なLとRの違い。そもそも英語ネイティヴはLとRを似ている音と感じていない。驚くべきことに、Lに近いのはDであり、Rに近いのはHと感じているのである。従って、LとRがうまく識別できない人は、LとRの発音が正しくできずにごまかしている可能性が高い。

中国語のLとRは、英語のLとRとは異なる。日本語のラは、中国語ではほぼ拉(la1)である。中国語のR音は英語のRよりも舌の影響が弱く、より母音に近い。日本(ri4ben3)はリーベンとイーベンの中間ぐらいである。

日本のラ行は、英語ネイティヴにはDに近いらしく、江戸文学とエロ文学の区別が難しいという。LとRのどちらに近いかというと、Rのようだ。英語のLはしっかりと舌を上につけなければならない。

韓国語のㄹ(リウル)は、日本語のラ行に近い。興味深いことに、ハングルでLを表記するとき、タレント/talent/탤런트のように語中ではㄹを二つ使うことになっている。これはLは強いリウル、쌍리을とでも言うべきものと、正しく理解しているためのようだ。ただし語頭は表記法がないため、ㄹ一つだけである。

参考文献
遠藤光暁『中国語のエッセンス』白帝社,2006
神山孝夫『脱・日本語なまり』大阪大学出版会,2008
湯澤質幸・松崎寛『音声・音韻探究法-シリーズ〈日本語探究法3〉』朝倉書店,2004
竹蓋幸生『日本人英語の科学』研究社出版,1982

・今日の一言
Jin Shentan's literature criticism had made a very deep influence on the Japanese literature in Edo times.
金圣叹的文学批评 ,对日本的江户文学产生了不可忽视的影响。
金聖嘆の文学批評は日本の江戸文学に大きな影響を与えた。
김성탄의 문학비평은 일본의 에도문학에 큰 영향을 미쳤다.

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