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医療の限界(新潮新書) [本(医療問題]

『医療の限界/小松秀樹/新潮新書/2007』
著者:泌尿器科医
評価:日本の医療体制の危機を知り対策を述べる・良書

高齢男性の多くは無症状のまま前立腺癌のことが多い。
癌は早期発見、早期治療が原則だが、
この小さな癌は治療すると返って消耗するだけであるという。
何でも徹底して治療すればいいというものでもないのだ。

死亡した患者の遺族が莫大な賠償金を得る制度は、
モラル・ハザードを起こす危険があるという。
遺族といえど本人ではなく、死んだ場合、そのお金に必要性がない。
加害側のペナルティーは当然としても、
そのお金は違うところへ行くべきだろうと思う。

医学の進歩は日進月歩。著者の泌尿器科でも、
1974年当時の手術で現在行われているものはほとんどないらしい。
どんどん変わっていくのだ。

医療行為は不確実で、その基本言語は統計学である。
こうした医療の不確実性の認識を患者と医師で共有するべきという。
医師がパターナリズムで押し切れない時代である以上、
医療の真の姿を患者も知らなければならないのだろう。
これはメディアの任務であると思う。

頻発する医療訴訟の危険な兆候。
多くの中小病院は紛争を恐れて緊急医療から撤退してしまった。
産婦人科や小児科の不足もひどい。
さらに患者の医師への横暴さもある。
看護師にアンケートをしたところ、
過去一年間に患者から暴力を受けた経験がある人は67.5%にもなった。
そして、相当数の看護師が一年で辞職してしまうという。

医療訴訟の異常さは、
それが実際の医療過誤を反映していないことである。
研究の結果、医療訴訟の帰結と過誤の有無は関係がないと出ているのだ。
訴えられる医師とは、患者に愛想が悪い医師に過ぎないのだ。

日本の単位人口あたり医師数はOECD諸国の約2/3。
医師は不足している。
日本の医療費は対GDP比で、イギリスを抜いて先進7ヵ国で最低である。
それなのに医療費の削減を狙い競争化し、
患者を消費者とみなし、自由経済、自由競争にしようとする。

その自由競争の医療の世界がアメリカである。
アメリカの乳児死亡率は貧しいキューバよりも高い。
アメリカの個人破産の50%は医療費が原因であり、
破産者の75%は保険に加入している。
保険に加入しても病に倒れるとしばしば破産してしまうという。
もちろん、真に貧しい人はそもそも医療を受けることができない。

医療訴訟について、著者は専門の判定組織を作ることを提案している。
私もこの方向が正しいように思う。
また、医療の予算をもっと確保するべきだろう。

この本は、著者の以下の本の続編というべきものである。
『医療崩壊/小松秀樹/朝日新聞社/2006』

一応、エントリーも書いた。参考までに。
医療崩壊-「立ち去り型サボタージュ」とは何か

もっと、ちゃんとした書評が読みたい方はこちらへ。
書評 - 医療の限界(404 Blog Not Found)

より詳しく、医師が解説したものはこちらで。
■[本][医学]勤務医の主張

・今日の一言
医療行為は不確実であり、医療の言語は統計学である。
Medical practice is uncertain, medical language is statistics.
의료 행위는 불확실하고, 의료언어는 통계학이다.
医疗行为是概率性的,医疗语言是统计学。

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コメント 2

>医療行為は不確実であり、医療の言語は統計学である。

言い得ていますね。いつも勉強になります。
by (2007-07-29 21:50) 

Kay-akira_Hirota

日本は、医療効率世界一を死守して欲しいですね。
by Kay-akira_Hirota (2007-07-30 22:48) 

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