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主語を抹殺した男-評伝三上章 [本(人物伝記]

『主語を抹殺した男-評伝三上章/金谷武洋/講談社/2006』
著者:カナダ在住の日本語教師
評価:三上文法の解説と不遇の変人の伝記。

日本語は文脈依存というわけではない。
文脈に依存しない言葉はないという。
日本語は文脈依存するが英語はしないというのは誇張で、
英語でも文脈がないと正しく理解できない言葉はいくらでもある。

日本語の動詞には活用がないという。
英語の活用とは意味が違うからだ。

三上の指摘する主語不要論。
意味が全部わかるということと省略のない自立した文章とは別問題。
日本語は主語を省略しているのではなく、主語が不要なのである。

だから逆に言うと、
英語は不要かつ余分な主語が必要な無駄な言語と言える。
英語と日本語の重要な違いは代名詞で、
日本語の代名詞はただの名詞であるが、
英語の代名詞は名詞ではなく、機能語、すなわち文法要素である。
日本語から見ると、英語というのは、
助詞の"が"と"を"を省略し、前後の位置で表現する言語である。
位置で主語と目的語を表現するため、
主語と目的語が必要ないときもその位置を明示する必要がある。
これが英語の代名詞の役割である。
英語の代名詞とは穴埋め語なのである。

私淑とは、
直接教えを受ける機会の無かった学者を自分の先生として尊敬し、
その言動にならって修養すること。

金谷氏は三上章を私淑しているという。
私淑というと、私にも私淑する人物がたくさんいるといえると思う。
その人の著書を全部読みたいと思わせる人たちである。

●宮城音弥(心理学者)1908-2005
この著者は、新書が多くほとんどの本が薄い。文章が短文で簡潔。
そして言葉の展開に飛躍がない。読みやすくて、安定感がある。
内容はもっぱらフランスやアメリカの心理学研究を紹介解説して、
自分の意見を追加するもの。私にとって、文章と思考の先生である。

『心とは何か/宮城音弥/岩波新書/1981』
心に対する多様な意見の概論。心理学史とも言える。
『新・心理学入門/宮城音弥/岩波新書/1981』
心理学ではどんなことを研究しているかわかる。
『人間の心を探究する/宮城音弥/岩波新書/1977』
自伝で心理学概論をするという珍しいスタイル。
『日本人とは何か/宮城音弥/朝日新聞社/1972』
これが予想外に多角的な分析で面白い。
『性格/宮城音弥/岩波新書/1960』
多様な性格論+自説の解説。
『精神分析入門/宮城音弥/岩波新書/1959』
正しい部分と間違いの部分を切り分けしている。

●沢田允茂(哲学者)1916-2006
科学哲学というと、科学の哲学であるのが普通だが、
この著者は哲学の科学化を考えていた。
また弁証法の論理も考えていた。
論理学に重点を置きながら、
現実世界との接点を常に忘れない人である。
言葉の展開が慎重で安心できるが、
文章は一文が長すぎ、かなり読みにくい。

『論理と思想構造/沢田允茂/講談社学術文庫/1977』
弁証法や思考について。
『知識の構造/沢田允茂/NHK市民大学叢書/1969』
物質も他人の心も同一基準のすべての心と知識の理論へ。
『哲学の基礎/沢田允茂/有信堂/1966』
NHK大学のテキスト。多角的な内容。
『考え方の論理/沢田允茂/講談社学術文庫/1976』
毎日出版文化賞作、少年少女のための論理学。

●都筑卓司(物理学者)1928-2002。
講談社ブルーバックスで物理読み物をたくさん書いた。
わかりやすくて面白い物理学解説では、今もこの人以上の著者はいない。
竹内薫も山田克哉も後継者になれそうもないのが残念だ。
幸い、人気のあった本は新装版になって再刊されている。

『物理トリック=だまされまいぞ!/都筑卓司/講談社ブルーバックス/1981』
電球の点灯順序問題の解説が圧巻である。
『「場」とはなにか/都筑卓司/講談社ブルーバックス/1978』
『はたして空間は曲がっているか/都筑卓司/講談社ブルーバックス/1972』
『マックスウェルの悪魔/都筑卓司/講談社ブルーバックス/1970』
『不確定性原理/都筑卓司/講談社ブルーバックス/1970』
『四次元の世界/都筑卓司/講談社ブルーバックス/1969』
どれも面白い。例えが当時のものなのでレトロな気分に浸れます。

●アレクサンドル・ルリヤ(神経心理学者)1902-1977
旧ソ連の学者。以下の2冊は是非再刊して欲しい。
岩波文庫、ちくま学芸文庫、講談社学術文庫のどこかに
収めるべき名著と思う。

『偉大な記憶力の物語/アレクサンドル・ルリヤ/文一総合出版/1983』
忘れることができないという記憶術師シェレフスキーの心の驚異。
『失われた世界/アレクサンドル・ルリヤ/海鳴社/1980』
銃弾を受けて左頭頂葉障害となったザシェツキーの話。感動の名著。

以上は、故人である。以下の二人は現役の研究者。

●河野哲也(哲学者)
メルロ=ポンティやギブソンをベースにしているので、
現象学者と呼ぶべきか。
ギブソンのアフォーダンス論を的確に理解している数少ない学者である。
その哲学の認識論がどのように現実社会に影響するか見渡すところなど、
真に哲学がわかっている人である。

『〈心〉はからだの外にある/河野哲也/NHKブックス/2006』
新しい認識論から見る世界と社会。認識の歪みを正す。
『環境に拡がる心/河野哲也/勁草書房/2005』
主体とは何か、心の社会性、環境性を知る。
『エコロジカルな心の哲学/河野哲也/勁草書房/2003』
ギブソンのアフォーダンス論がわかりやすい。

●広井良典(社会学者)
社会学者だが、扱っている範囲が実に広い。
医療経済論、社会保障論、科学史、科学哲学と、
人文系でありながら自然科学への理解も深い。

『持続可能な福祉社会/広井良典/ちくま新書/2006』
『日本の社会保障/広井良典/岩波新書/1999』
『定常型社会/広井良典/岩波新書/2001』
これらは、目指すべき新しい社会への展望を得ることができる。
『脱「ア」入欧/広井良典/NTT出版/2004』
アメリカよりヨーロッパこそ日本の学ぶべき対象だ。
『死生観を問いなおす/広井良典/ちくま新書/2001』
さまざまな時間論から社会を考えることができる。

・今日の一言
文脈に依存しない言葉はない。
There is no language which is independent of the context.
문맥에 의존하지 않는 언어는 없다.
没有不依靠上下文的语言。

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