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マインド・タイム-脳と意識の時間 [本(脳科学]

『マインド・タイム』
ベンジャミン・リベット(大脳生理学者)
岩波書店(2005)


時間と意識についての実験が面白い。脳と心を知りたい人必読。

実験1
時間を示す動く点を見て被験者に手首を動かさせる。
秒針が普通の何倍もの速さで動く時計を見ていると思えばよい。
そして、手首を曲げようと決めた瞬間の点の位置を覚える。
すると被験者は、
実際に手首が動くより0.2秒前の位置を答えたのである。

意図が行動より0.2秒先にあることになる。

そのとき脳内の準備電位も計測した。
すると、補足運動野では運動の0.55秒前に準備電位を記録した。
意図は0.2秒前であるから、
それよりもさらに0.35秒早く脳は反応していたことになる。

すなわち脳が動いてから意図を感じる、
脳が意図を生み出したことになるという。

実験2
一次体性感覚野に電極接点をつけて刺激する。
このとき0.5秒以下の期間だと自覚されない。
0.5秒以下では相当に強く刺激しても自覚されないのである。
強くしてもあまり関係なく長さが重要なのである。

実験3
右半球の障害で左側の皮膚刺激の認知が弱い被験者。
両手に同時に刺激を与えると、
左手より先に右手を刺激されたと感じる。
左手を0.5秒先に刺激すると同時と感じた。

実験4
皮膚と皮質を同時に刺激すると皮膚刺激を先に感じる。
皮質を刺激しその0.5秒後に皮膚刺激するとそれを同時と感じる。
感覚上行路/内側毛帯と皮膚を同時に刺激すると同時に感じる

これらの実験は何を意味するのか?
著者のいうとおり意志や意図を示すのか?

むしろこれは身体の同期の問題である。
健常者の皮質と右半球障害者の左半身皮膚の刺激は、
感覚上行路/内側毛帯や皮膚の刺激よりも0.5秒遅れる。
人間は身体をベースにして同期をとっているということだ。
この同期には皮質を経由しないルートが使われているだろう。

意図/意志よりも脳が先に反応するのはなぜか?
それらもすべて記憶と感情の影響を考えなければならない。
我々は何かを意志を持つとき、それは感情と記憶の影響を受けている。
そうした漠然とした感情と記憶が寄り集まり結実したとき、
意志として自覚されるのである。
脳は感情と記憶の結実を捉えているのだ。

脳の反応といっても、脳はすべての部分が常に活動している。
活動の波が高まった位置と瞬間を、
"反応した"と表現しているだけなのだから。

定義は生産的な思考を推進する限りにおいてのみ有益という。
ポパーの影響を受けたらしい優れた意見である。
言葉の意味は、
常にそれが生み出すものを見据えて使わなければ空虚なのである。

車輪の特製である回転運動は車輪の材質ではわからないという。
創発の例である。
大事なことは、"形こそが性質を生む"ということだ。
物質の性質も電子の配列などの形が生む。
物の持つアフォーダンスも、その本質は形が生み出すのだ。
それは人間の精神についても同じ。
"心"という現象を生み出すのも、脳の構造が持つ形の性質である。
脳の回路の位相幾何学が精神を生み出すのである。

げっ、このリベットって90歳! まだ現役かよ。すげー。
文章が読みにくい。ひどい悪文だ。
が、訳者も苦戦しているようで、
原文自体がひどい悪文かもしれない。

・今日の一言
脳の回路の位相幾何学が精神を生み出す。
A brain circuit produces mind based on its topology.
뇌의 회로의 위상 기하학에 의거하여 마음이 발생한다.
按照拓朴,大脑回路产生精神。

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コメント 1

トルサル

全部読ましてもらいました。実験1の「意図が行動より0.2秒先にあることになる。」は、サルトルの実存主義、「実存(主義は)本質に先立ち、本質を創る」が正しいことが、脳生理学的に実証されたと僕は考えます。
by トルサル (2006-08-29 09:12) 

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