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ことばと心理-言語の認知メカニズムを探る [名著再掲] [本(言語学]

『ことばと心理-言語の認知メカニズムを探る』
石川圭一(音声学、心理言語学、応用言語学)
くろしお出版(2005)


外国語学習者必読の名著。文句なし。

音声的に日本語は平凡な言語。
日本語の5母音体系が世界で一番多い。
英語の複雑な母音体系は珍しいのだ。
日本語が複雑なのは書字体系だけである。

5ヵ月乳児は言語のリズムで区別できる。
乳児は手足をリズミカルに動かすが、
この運動のピーク時期が喃語の出現時期と一致する。
共通のリズム運動を利用しているのである。

これが外国語を学ぶときに、
体を実際に動かすことが有効であることを示唆する。
手や足でリズムを取って練習するのがよいわけだ。

ディクテーションテストでは、
句にポーズを入れたテープが最も成績が良い。
読解時にメトロノームなどのリズムがあるとやや効果があるとされる。

第二言語の中級学習者は単語をイメージするとしないより記憶率が高い。
ところが初級学習者は、
イメージしてもしなくても記憶率に有意差がない。
おそらくイメージ同士の連結が弱いためだろう。
メンタル・レキシコンの構築が不十分なのだ。

単語の記憶。
語に接する回数は2回でも効果がある。
4回は2回と差が少ないが、6回は効果がある。
そして同じ語には6回接すると意識せずとも覚えられるのである。

発音と聞き取りの関係。
LRの発音と弁別の相関係数は0.56で統計的に有意。
正しく発音できることは聞き取り能力を高めるのである。

発音と聞き取りの上達の違い。
発音の上達は徐々に連続的に進む。
聞き取りは段階的で非連続的に進む。

学習初期になにより重要なのは聞き取り。
アメリカ人にロシア語を教える授業の比較。
初学者に一切発音させない学習では、普通に発音する学習より、
話す聞く読み書きの4技能すべてが好成績だった。
表現能力より先に認知能力を形成するのである。

語学学習の初級段階はあまり発音練習しない方がよいのだ。
特に先生がいないのに音読するなど論外である。
聞く力がないから、間違った発音を身につけてしまう。
自分の発音が正しいかなどわかるものではない。
耳ができない内に発音できるようになるはずがない。
正しくない発音を何度も練習すれば悪い癖がつくだけだ。
わざわざ語学力を低下させるために練習するようなものである。

文法能力の臨界期は母語との関係も深い。
中国人と韓国人が英語を学ぶ場合は8歳だったが、
スペイン語話者は16歳だった。
文法の差異が大きいほど臨界期が速く来るのである。

英語、ドイツ語、オランダ語の音声はストレスリズム。
ストレスの間隔を一定に保とうとするのだ。
フランス語、イタリア語、スペイン語は、
音節単位で知覚するシラブルリズム。
対して日本語はモーラリズムである。

さて……
外国語を話すとき、その伝わりやすさを決めるのはリズムであり、
聞き取るときに大切なことは、
意味の切れ目ごとにチャンクで認識することである。
それには、外国語のリズムとアクセントを知ると効率的だ。
では、日韓英中はどのようなリズムとアクセントを持つか?

日本語は、モーラリズム・高低アクセント言語
韓国語は、フレーズリズム・緩急アクセント言語
英語は、フレーズリズム・強勢アクセント言語
中国語は、シラブルリズム・強勢アクセント言語

日本語はモーラ(子音+母音)、
すなわちカナ文字一つを等間隔に発音する。
外国人が日本語を学ぶと日本語は機関銃のように音が聞こえるという。
等間隔に同じ強さで音が連打されるからである。
どこかを強調して言いたい場合は、
その部分のピッチを上げることになる。

韓国語はフレーズを一つの固まりとして等間隔に発音する。
そして強調したい部分は、その音を伸ばす。
잘チャール、とか、쭉チューックなど副詞部分や、
文末の요ヨなどを伸ばすことが多い。
ハングル一文字の音の長さは、伸びたり縮んだり変化するのである。
韓国語がハングルだけで分かち書きするのも、
字がリズムを表さないことと関係するようだ。
またフレーズが一つの固まりなので、
その中の音は一体化してリエゾンする。

英語は韓国語と同じくフレーズ単位であり、
強調したい部分は強く発音する。
英単語は、多くが第一音節にストレスがあるのはそのため。
英語は、フレーズが理解できれば聞き取りが容易になるし、
フレーズごとに一ヵ所、リズムを取るようにストレスを置くと
英語らしい発音になる。
また英語も韓国語同様フレーズ内部では音が一体化してリエゾンする。

中国語は、シラブル単位である。漢字一文字(子音+母音+子音)である。
シラブル単位はモーラ単位とよく似ている。
日本語の俳句や中国語の漢詩が字数を揃えるのもリズムが近いからだ。
ただし、中国語は声調言語なので、ピッチを上げることはできず、
強調する部分を強く発音する。

・今日の一言
同じ語に6回接すると意識せずとも覚えられる。
같은 단어를 여섯 번 접하면 의식하지 않아도 기억할 수 있다.
看到六次单词,即使精力不集中也能记住。
If you come across the same word 6 times, you can learn it without any conscious effort.

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