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「戦争」の心理学-人間における戦闘のメカニズム [本(軍事]

『「戦争」の心理学』
デーヴ・グロスマン(レンジャー部隊、心理学、歴史学)
二見書房(2008)


兵士と戦場心理と、暴力メディアの悪影響を知る。ちと分厚い。

戦争を防ぐにはどうすべきか。
政治学者ブラッドリー・R・ギッツは、
民主主義国家同士は戦争しないという。
民主国家こそが世界から戦争を減らす可能性を持っている。

恐怖は戦いに備えた状態。
恐怖で増えるコルチゾールは、血液の凝固速度を増すのである。

戦場の爆風と衝撃による反応。
第二次大戦のアメリカ兵の1/4は尿失禁、1/8は大失禁の経験があった。
しかもこれは申告数で、実数はもっと多い。
また9・11テロの生存者の大半は大小失禁を経験しているという。

戦場ではストレスで行動が自動化してしまう。
救急の911でなく番号案内の411にかけた警官。
いつもその番号にかけていたので、
その番号にしかかけられなかったのである。

戦場では74%が自動的に行動し、意識的に行動できない。
空薬莢がポケットに入っていた警官。
薬莢を地面に捨てない練習のくせが出て、
いちいち薬莢を手で回収していたのだ。

そのため訓練では実戦と全く同じ行動で練習しなければならない。
例えば警察官は「銃を捨てろ」でなく「武器を捨てろ」と練習をする。
相手が包丁でも「銃を捨てろ」と言ってしまうのだ。
また訓練といえど撃たれても止めにしてはいけない。
心臓が止まってもその後5-7秒は命があるので戦うべきなのだ。

また人は2リットルの血液を失うまで動くことができる。
訓練では、2リットルを水をぶちまけて、その量を確認し、
自分の耐えられる量を知っておくという。

戦場のストレスによる知覚の変化。
銃撃戦で8割の警官は銃声が小さく感じた。しかも耳鳴りもしないのだ。
8割はトンネル視野を経験した。
筒を除くような視野となり、
犯人の銃を持つ手の指輪のみが見えたりするのだ。

警官の明晰視現象とは動きがゆっくりに見えること。
65%が経験しているという。
記憶が一部ないのは47%。
距離感の歪みを感じることもある。

現場で落ち着く方法。戦術的呼吸法。
腹式呼吸を三回する。
4つ数を数えながらゆっくり息を吸う。
止めて4つ数える。
4つ数を数えながら息を吐く。
なぜかこれは胸焼けにも効くらしい。

戦場には英雄がいる。
第二次大戦の空中戦では、上位100人のパイロットが14000機を撃墜した。
あるいは1500人のドイツ兵を一人でくい止めたジーノ・メルリ。
戦場で活躍するのはごく一部の兵士だけであり、
あとはただのデクノボウである。

古代ギリシアの指揮官の言葉。
100人の兵士がいれば、10人は足手まといであり、80人はただの標的。
9人はまともな兵士で実際に戦争し、
1人は戦士で、他の者を助けて帰ってくるという。

戦争は激しい罪悪感をともなう。
相手を殺すと嘔吐する兵士は多い。
眼球叩きとは、死体の銃口で目をつつくこと。
生きていれば我慢できないからだ。
これまた不気味で辛い作業である。

戦場から帰った兵士にはケアが必要だ。
帰ってきた兵士には心配していたこと、
無事で嬉しいことを伝えることが大切。

軍隊には事後報告会が必要だ。
記憶と感情を切り離し別々に分けるのだ。

眼球運動による脱感作と再処理法、EMDR。
問題場面を想起しながら動く光を目で追う。
そのとき何を感じたか報告する。
こうするだけでストレスが軽減するのだ。

視線を動かすと感情を抑えることができる。
感情には特定の目の動きがある。
動く光を目で追うのは自動的な反応なので、強制的に感情に干渉できる。
こうして辛い感情をともなった記憶を、
感情の重みを弱いものへと置き換えることができるのだ。

この本は大きく二つの内容に分かれていて、
一つは戦場心理であり、もう一つは暴力メディアの影響である。

殺人事件の件数は本当はもっと多いと見なければならない。
外傷治療技術の進歩がなければ3-4倍になったという。
暴力犯罪では殺人未遂を数えるべきなのである。
そうすればアメリカでいかに暴力犯罪が増えているかがわかるのである。

ちなみに日本の殺人事件統計はちゃんと未遂を含んでいる。
未遂が殺人に入るのが不思議だったが、
こうして考えてみると正しい数え方だとわかる。
そして日本の殺人数は去年戦後最低を記録した。
まさに日本ほど安全な国はないのだ。

ニンテンドーのシューティングゲーム、ダックハント。
アメリカ陸軍が購入し、多目的戦闘シミュレーターに改変して使用した。
ゲームは戦闘訓練に使えるのだ。

その真価を示した少年殺人犯。
ケンタッキー州パデューカの14歳のマイクル・カーニアル。
8発8中にして、5発は頭部、3発も上半身に命中させた。

学校発砲事件の犯人全員がメディアの暴力描写に耽溺していた。
また規律の厳しい団体活動を嫌っていた。

アメリカの2002年の暴力犯罪の発生率は1957年の5倍に増加している。
2000年7月、アメリカの医師、小児科医、心理学者、
児童精神科医らは宣言した。
ゆうに一千を超す研究によって示されるとおり、
メディアの暴力と一部の児童の攻撃的行動のあいだには
因果関係があると。
もはや証拠は大量にあるのだ。

特に2001年のスタンフォード大学の、
テレビと暴力の実証研究が強力である。

それでも無関係と主張する人はいる。
ゲームが無害と主張する心理学者のジョナサン・フリードマンは、
ハリウッドから研究資金を受け取っている。

暴力的であるとしてディズニーをボイコットした南部バプテスト協会。
大きな効果があったがメディアは報道しなかった。
メディアは自分に都合の悪い事実は報道しないのである。
さらにときに、観客が求めるから作るのだと言い訳する。
著者はこれを麻薬ディーラーの理屈だと切って捨てる。

日本でもこの問題は錯綜している。
暴力メディアの影響を否定する人たちに多く見られる勘違いは、
主に3つに分けられる。

1.社会事象はほとんどが相互因果であること
メディアと暴力の因果関係を、
メディア⇒暴力でなく、暴力⇒メディアとするケース。
メディアの暴力が社会の暴力を増やすのではなく、
社会に暴力が蔓延しているからメディアも暴力的なものが増えるという。
これは社会事象のほとんどが、
相互因果であることを理解しない誤りである。
実際にはその双方向の因果があって相乗的に増えるのだ。
これは一部の学者に見られる。

2.否定は反対意見の肯定ではないこと
暴力メディアと攻撃行動の関係についての研究を検証し、
その杜撰さを指摘して、暴力メディアの影響を否定するケース。
しかし否定は反対意見の肯定ではなく、すべての研究を否定しても
暴力メディアの影響を否定したことにはならないのだ。
自分の専門外について学者が語るとよくこういう間違いをする。

3.集団は個人と異なること
自分の経験を思い出し、自分はたくさん見たけども影響していない、
そんな影響があるはずがないというもの。
人間の多様性を無視した誤謬である。
100人中に1人、2人でも影響を受ける人がいれば、
集団に対するルールとして必要が生まれるのだ。
これは全くの素人に多い間違いである。

ちなみに、暴力映像を見ることでガス抜きになるとか、
カタルシスとなって暴力行動が減るということは、
研究からは全く支持されていない。

・今日の四言
民主主義国家同士は戦争しない。(政治学者)
Democratic nation does not go to war against another democratic nation.(political scientist)
민주주의국가 사이에서는 전쟁하지 않는다. (정치학자)
民主主义国家之间没有战争。(政治学家)

心臓が止まってもその後5秒は戦うことができる。
Even if your heart stops, you can fight enemies for 5 seconds.
심장이 멈추어도 그 후 5초는 싸울 수 있다.
心脏停止后5秒钟以内,人还能战斗。

メディアの暴力と一部の児童の攻撃的行動のあいだには因果関係がある。
There is a cause-and-effect relationship between violence programs and the offensive behavior of some children.
미디어의 폭력과 일부 아동의 공격적 행동에는 인과관계가 있다. (심리학자)
媒体的暴力表现和一部分儿童的攻击性行动有密切的因果关系。

"観客が求めるから作る"なんて麻薬売人の理屈と同じだ。
"Because it's requested by audience, so I make it." It's quite same as the logic of dope pushers.
관객이 바라기 때문에 만든다니 마약 판매인의 핑계와 똑같다.
因为观众要求所以我们做那种节目,这和毒枭的道理一样。

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