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戦争における「人殺し」の心理学 [本(軍事]

『戦争における「人殺し」の心理学/デーヴ・グロスマン/ちくま学芸文庫/2004』
著者:陸軍、心理学、歴史学
評価:戦場の真実を知る名著・これを読まずして戦争を語るなかれ

第二次大戦のアメリカのライフル銃兵の発砲率は15-20%だった。
敵が前にいるのに、ほとんどの兵士は撃つ以外の仕事をしようとする。
人は人を殺すのに激しい抵抗感があるのだ。
それが朝鮮戦争では発砲率55%となり、
ベトナム戦争では90-95%にまで上昇する。

これは3種類の殺傷率を上げる訓練を行ったため。
脱感作、条件づけ、否認防衛機制である。
シミュレーションで慣れることで脱感作し、
反射的な早撃ちの能力を養う条件づけを行い、
人を的と思い、殺して当然と思う否認防衛機制を作る。
これがベトナム戦争までに完成された訓練法である。

この訓練法と同じことがテレビやゲームで行われている。
テレビゲームは一般に、
試行錯誤や系統的な問題解決能力を高め、
計画や位置把握を学ぶことができる。
問題は、手に武器を持ち人間型の標的に発砲するゲーム。
これがアメリカの加重暴行事件の発生率、
1957年以降の急上昇に関連するという。
銃の特徴は離れたところから一瞬で殺せること。
殺人の反射を覚えてしまうため危険なのだ。
それでもテレビの影響力はないとテレビ局は主張するという。
しかし、なければスポンサーがつくはずがない、
というのがわかりやすい反論である。

アレクサンダー大王の兵士の戦場での損失は生涯に700人。
負けなかったからだ。戦場では勝者にはほとんど損害が出ない。
ただし、戦病死は相当な数にのぼるので誤解しないように。

接近戦ではほとんどの兵士が敵を殺さない。
白兵戦など戦場には存在しない。
ただ背を向けた者を斬る場面があるだけである。

第二次大戦、撃墜された敵機の30-40%は、
味方の1%未満のパイロットが撃墜していた。
敵を殺すのはごく一部の人間が行うのである。

中世や古代の戦争もどんなものか想像できるだろう。
古来より白兵戦での死傷者というのは多くない。
戦場の主要な武器は弓矢であった。
ほとんどの兵士は戦場に出ても人を殺すことはない。
兵士は人を殺す経験はしないのだ。
一部の人たちが大量に殺すのである。
勝利側の兵士なら、ただ戦場に到着してわけもわからず弓矢を放ち、
みんなについて動くだけである。
敗北側の兵士も同じで、ただ弓矢を放ち、
負けて逃げるときに斬り殺されるだけである。

歴史上の豪傑たちがときに数百人も殺害したと記録されるのも、
ほとんどの兵士は敵に面と向かうと刀を奮うことなどできず、
豪傑に一喝され逃げまどうなかを斬られていくだけだからである。

戦場での心理的なスタミナは有限である。
ナポレオンは勝利の直後が最も危険とした。
副交感神経の揺り戻しが起こり、猛烈な睡魔に襲われるためだ。
副交感神経の揺り戻しを遅らせるため、
敵との接触を出来るだけ長く保つための追撃が不可欠。
そして、背を向けた敵を追撃するとき相手に大量の死者が出る。

これこそ、兵法でいう"勢い"いうものである。
勢い=気とは、生物学的な構造によるのである。
こうした兵士の気の上がり下がりを理解するものが名将である。

戦闘中の兵士たちのきずなは夫婦より強いという。
中国史では、家臣を粛清しなかった皇帝が三人いる。
後漢光武帝、唐太宗、宋太祖である。
この三人の共通点は戦場で戦う戦士であり、
部下は共に馬を並べた戦友であったことだ。
お互いに命を預け合ったものの結束の固さ故である。

・今日の一言
ほとんどの兵士は人を殺さず、ただ殺されるだけである。
Most soldiers can't kill anyone, they are only killed.
대부분의 병사는 사람을 죽일 수 없고, 단지 죽음을 당하는 것 뿐이다.
大部分的士兵不会杀人,只是被人杀。

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