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民衆のため平等を求める光武帝の孤独な戦い [光武帝劉秀(Emperor Guangwu)]


今日は光武帝の誕生日(ユリウス暦紀元前5年1月15日)というわけで光武帝について。光武帝の真の深遠さは天下統一が為されてからの政治にあった。

前漢末期から王莽の新の混乱、後漢初期の戦乱の時代にあって発生した大問題は、貧富の差の拡大と、それにともなう奴婢すなわち奴隷の大量発生という問題である。

劉秀は天下統一の過程で領土を拡大するたびに奴婢を無条件解放させている。さらに新しい法律を提示する。それが略人法と売人法である。それぞれ人さらいに関する罰則、人身売買に関する罰則を定めたものだ。戦争で城を陥落させたときに女や子どもを略奪して自分の奴婢にしてしまうケース、戦乱の飢餓に耐えられず家主が妻や子どもを売り払ってしまうケース、この二つが奴婢の供給源だったからである。

さらに西暦35年3月6日には、

「天地之性人為貴。其殺奴婢,不得減罪。(この天の地の性質として、人であるから貴いのである。故に殺したのが奴隷でもその罪を減らすことはできない。)」

という詔書を発行し、法律の改革を進めた。人が貴い存在であることは、天地、すなわちこの宇宙自体が持つ自然の性質、言うなれば重力のように誰にも変えられない天与のものとし、貴さの起源が人間存在にある以上、貴族も良民も奴婢も貴さは同じであり、同じ刑法が適用されるのだ、というのである。この言葉は中国における人権宣言として、アメリカの独立宣言にある"All men are created equal"に相当するものとして注目されている。劉秀はこの年に、不平等だった法律を具体的に一つ一つ排除を進めている。

後に後漢では、奴から太守にまで出世した李善という人がいたし、常侍樊豊が自分の家の奴婢を殺す事件が起こると、洛陽の県令はその妻を捕まえて直ちに死刑にした。奴婢と良民の法律上の平等が守られていたのだ。そのため奴婢に対する偏見も少なくなり、後漢の安帝の母は婢であったほどである。そのため奴婢は身分というより、犯罪の刑罰としての労役や貧民の一形態になったとされる。

しかしただ刑罰が平等であるということだけでは、真の平等な世界は望めない。世界の貧困を取り除く必要がある。そこで経済発展のために施策も数多く打ち出す。郡、県などの統廃合を進め、役人の数を半減させる。税を三十分の一税にする。国家予算と別にあった帝室の予算をなくし国家予算に併合した。

とりわけ重大なものは二つ。塩、鉄などの国家専売と徴兵制の廃止である。

塩、鉄などの国家専売は、国家に利益をもたらすものの、民衆に不便をもたらした。例えば鉄器を生産するとき市場を経ないため、民衆に必要なものでなく、やたら大きいものが作られてそれしか購入できなかったのである。これは旧ソ連の経済失敗と同じであるのが興味深い。

徴兵制の廃止は国民の負担を大きく軽減させた。というのも、古代王朝では農作物の税よりも労役である税が遙かに重かったからである。徴兵制の廃止は前漢の二倍以上とされる後漢のGNPへと結実することになる。

さらに税の平等性を確保するため、中国全土に度田と呼ばれる大規模センサスを行う。戸籍、土地、建物などを全国調査して正確な登記をしようとしたのだ。

たがここで遂に劉秀の行動にブレーキが掛けられる。官僚と大地主など既得権益勢力の結託によるボイコットが始まるのだ。調査結果は虚偽が相次ぎ、青州では反乱も発生する。大臣も敵である。それどころかかつて戦場で生死を共にした将軍たちにも、ボイコット側に与するものが出る始末である。劉秀の理想はとても二千年前の古代人には理解不可能なものであったのだ。

対して劉秀は、政治の戦いでも戦場同様に一歩も退かずねばり強い戦いを展開する。虚偽報告をした大臣や地方官僚を厳罰に処して、二千石級の大官から十数人の死者を出す。反乱軍に対しては、謀略を駆使して相互密告を奨励することで空中分解させる。建国の将軍、二十八星宿の一人である劉隆は地位を剥奪されて庶民へと転落し、大学者として多数の学生とともに反対運動を展開した欧陽歙も獄死する。戦場の英雄皇帝の断固たる態度に遂に世界は粛然とするのである。今後、後漢では数年ごとに厳密な調査が行われるようになる。

劉秀はさらに教育を普及に重点を置き、農閑期を利用した五年間に及ぶすべての児童に対する基礎教育も始まる。これは後漢王朝の驚異的な識字率と数十万人の高等教育卒業者を生み出すことになる。

劉秀が死に際して残した遺言は、この男の性格を教えてくれる。

「朕は百姓に益するところがなかった。葬儀はみな孝文帝の制度の如く簡略にせよ。刺史、二千石の長吏はみな城から離れてはならない。官吏を遣わしたり上書してはならない」

人々の役に立てなかったという最期の感嘆は、これほどまでしても世界は劉秀の理想からはほど遠く満足できるものではなかったということだ。そして、そんな自分を誰も哀悼することを許さなかったのである。

・今日の一言
天地之性人為貴。其殺奴婢,不得減罪。
この天の地の性質として、人であるから貴いのである。故に殺したのが奴隷でもその罪を減らすことはできない。
그 하늘과 땅의 성질로서 사람이기 때문에 귀중한 것이다. 그러므로 살해한 사람이 노예라도 그 죄를 줄일 수는 없다.
The nature of heaven and earth says that value derives from being human. Therefore if you kill a slave, you cannot receive the favor of clemency.

タグ:光武帝 劉秀
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