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円高はなぜ悪か-すべては名目賃金の下方硬直性にあり [考えたこと]

円高なので輸入書を買ってしまったが、まだ下がるのならもう少し待つべきだったかと思う最近。

10円円高になると日経平均は1100円下がる現実を見よ--米国債格付け引き下げより深刻な、政府・日銀の「自国窮乏化政策」


この図もわかりやすい。ここではなぜ円高がよくないのか考えてみよう。

円高というのは、日本の通貨が高くなることだから、原理的には良いことのはずである。原料は安く買えるし、海外資産をたくさん買うこともできる。

しかし海外と競争している企業にとっては、相対的な人件費の高騰によって、競争に敗れてしまう。そして産業の空洞化により、膨大な失業者ができてしまう。人件費は本質的に下がらないものだ。これを名目賃金の下方硬直性という。名目賃金の下方硬直性の問題がある限り、円高とデフレは絶対悪で有り続けるのだ。

円高に対処する方法は二つある。一つは国債の日銀引受。そのお金を政府が使うことで、市場の円増やし円の価値を直接下げてしまうこと。

もう一つは円高を容認して、円高のデメリットを排除すること。円高のデメリットの原因は、名目賃金の下方硬直性にあるのでそれを解消すること、簡単に言えば日本人の給与をどんどん下げるということである。輸出産業の給与を年々下げていくことができるか。もちろん他の業種も生産性に合わせて給与を下げていかなければならない。

名目賃金の下方硬直性が最も顕著な職業は公務員である。ここ二十年の円高とデフレで公務員の給与はその生産性に比して異常に高い給与を受け取るようになっている。これをいきなり減らすことができるか。生産性から言えば、公務員の給与は一律半減ぐらいが適正値かもしれぬ。こんなことが本当にできるのか。しかも大事なことは公務員を減らすことではなく、一律に全体の給与を下げることである。日本は公務員が世界でも最も少ない国の一つであり、公共サービスが不足しているからだ。

しかしこれは到底不可能だと思われる。名目賃金の下方硬直性というのは人間精神の本質にかかわる問題であり、これを破壊するのは不可能だからである。人間というのは、前より良くなることや現状維持には耐えられるが、悪くなることには耐えられない。給与の据え置きには我慢できても、減ることには耐えられない。だから給与を減らさずに人を減らそうとしてしまう。すると失業率が高くなり、貧富の差の拡大、公共サービスの不足などがてきめんに現れてしまう。

おそらく一部の経済学者が勘違いしているのは、名目賃金の下方硬直性が人間にとって本質的な性質であることを理解せず、名目賃金の下方硬直性を解消できると誤解していることである。ノーベル賞受賞のカーネマンのプロスペクト理論、知覚は変化に集中し状態を無視すること、満足度を高めるのは変化であって状態ではないことなどをマクロ経済においてもよく考える必要がある。

名目賃金の下方硬直性は社会制度が生み出すものではない。労働組合が強いから発生する現象などではない。人間の脳に最初から組み込まれたものなのである。

人間本性を無視した経済政策の結果、失業者が増大してしまう。失業者の増大は絶対的に経済活動の量を減らしてしまうものだ。

経済について考えるとき忘れてはいけないことは、経済の本質は価値やサービスの交換であって、お金が動くことではないということだ。AさんとBさんが交互に1万を渡すことを繰り返したところで、数値上はお金のやりとりになるが、経済的には意味がない。逆にAさんとBさんがボランティアでお互いに手伝え合えば、それは金銭的には0でも経済活動である。日本の経済を見るときも、価値やサービスの交換がどれだけ潤滑で効率よく配分されているを見なければならない。労働資源の適切な分配が必要なのである。

名目賃金の下方硬直性を所与のものとして受け入れれば、実質賃金を下方修正する方法として、円を刷ってデフレと円安を解消する方向しか残されていないことがわかると思う。

・今日の一言
名目賃金の下方硬直性は人間本性から生まれるものである。
명목임금의 하방경직성은 인간본성으로부터 생기는 것이다.
名义工资下降刚性是人性产生的。
The downward rigidity of nominal wages is derived from human nature.

タグ:円高
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