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「新中流」の誕生-ポスト階層分化社会を探る(中公新書ラクレ) [本(格差問題]

『「新中流」の誕生/和田秀樹/中公新書ラクレ/2006』
著者:受験勉強研究、精神医学
評価:名著。中流消費者が企業を育てる。消費促進の税体系に改正を!

これは凄い本。これこそ文句なく日本を復活させる正しい方針である。
しかしタイトルが悪いな。内容が全くわからないもの。
『中流層消費者が企業を育てる』とか、
『中流社会が日本を復興させる』とかの方がいいと思う。

フィンランドの教育。
フィンランドは1600年代に義務教育法を制定した教育国家。
義務教育卒業時の学力は、読解と科学で1位、数学で2位。
経済もまた優秀。
フィンランドは2003年から2005年の国際競争力ランキングは1位。
そして、フィンランドの国民負担率は65%で日本の2倍という、
大きな政府の国である。

意欲のある子どもには賞罰は不要だが、
意欲のない子には賞罰ないと勉強しない。
終身雇用で安心して働ける人もいれば、
リストラの危険がないと働かない人もいる。
リストラで脅せばみんな働くというのは、
過度の一般化であり間違いである。

マスコミに出る政治家、芸能人、文化人は、
自分と同じ動機付けで他人が動いていると誤解し、
誤った世論を作っているという。
同感である。普通の人はあんなに競争心が激しくないのだ。

ネズミを使ったやる気の実験。
ネズミを3群に分けてそれぞれに電気ショックを与える。
ランダムに電気ショックを受けるネズミ群、
一度パネルを押すと電気ショックが止まるネズミ群、
パネルを7回押しで止まるネズミ群がある。
3つのネズミで最もダメージを受けたのは、
7回押し群で、ランダム群よりも損傷が大きかったのだ。
努力すれば回避できても、それがあまりに難しければ、
かえってストレスが増えるのだ。

また、優秀な人間が、
お金でしか動かなくなるのは社会にとって危険という。
高コスト社会になるからだ。

自国の大学院でなく、アメリカのビジネススクールに、
エリートが留学するようでは三流国という。
同感である。教育は自国で完備できなれば知の流出を招くだろう。

終身雇用でうまく機能している会社。
トヨタのカイゼンとは、
昨日と同じやり方で仕事をするなということ。
毎日いろいろなことを試行錯誤することで延びるのだ。

トヨタには、トヨタ社員村があるという。
普通の工員から常務専務まで住んでいるのだ。

そのため全国平均の高卒と大卒の生涯賃金差は8549万だが、
愛知県は1644万でしかない。
アメリカのハーレーダビッドソン社もまた終身雇用である。

自動車産業の育ての親のフォードは、
8時間労働を定め給与を三倍にし、中流階級をアメリカに作り出した。
ところが70年代アメリカは貧富の差が大きくなることで、
国際競争力を失ったのだ。
アメリカがITと金融で成功したのは政治力のためであって、
アメリカ以外の国が実行することは到底不可能である。

中流層の分厚い国こそ真に強い国である。
自国内に適正規模の中流層マーケットがないと
中流層向け産業は成り立たないからだ。
自国に消費者がいなければ魅力的な輸出商品を作ることは難しい。
製造業は自国に消費者が必要である。

消費者こそが企業を育てる。
これは見事な発想の転換であると思う。
優れた消費者を育てることが日本復興の道なのである。

もし日本の貧富の差が大きくなると得するのはヨーロッパと中国。
金持ちはヨーロッパ製品を買い、貧乏人は中国製を買うからである。

株価では実体経済は測れないという。
真の経済はお金でなく、労働の交換を見なければならないのだ。

消費を促進する税制とは?
相続税は100%にして親の介護や事業継承する人にだけ控除する。
相続税を下げ税金を安くして経費を認めないのは、
貯蓄推進の消費抑制税制である。
これでは不況が続き、合成の誤謬が生まれるのは当然である。

真に経済を安定させるには、貧富の差を減らし、
中流を増やすことである。
税制も、フローへの税からストックへの税へと移行しなければならない。
私が思うに、現金や預貯金、有価証券などの相続税は100%、
すなわち相続不可でいいと思う。
家や土地などの個人の生活にかかわるものは、
一億までなど上限があれば十分と思う。
すべての子どもが似たスタート条件を持てるようにすべきだ。

・今日の一言
中流消費者が企業を育てる。
Middle-class consumers nurture enterprises.
중류 소비자가 기업을 육성한다.
中等消费者培育企业。

※090825追記
トラックバックがあったので、思うところを追記しておく。

北欧の経済危機は中流層の厚さと関係がない。
金融危機の影響が直撃したのは、
経済関係の深い国がどこかということ、経済規模の問題。

中国経済の好調さは数値上の問題。
成長率が高くなるのは元が低いからだし、
実際の失業率も高く、日本が参考にできる要素がない。

トヨタの派遣労働の例は、実は中国の経済と同じ。
正社員(都市住民)と派遣(農村出稼ぎ)。
トヨタは中国方式を採用していたわけ。
そしてトヨタがダメージを受け、
中国がダメージを回避したことは、
この中国方式が経済危機とは別問題ということ。

最も大事なことはアメリカの経済。
金融危機の遠因には、アメリカの中流崩壊がある。
サブプライムなどは典型的な下流向け産業だ。
オバマ政権の成立は、和田氏の主張を証明している。

和田氏の主張の核は、
消費者構造こそが経済を決めるということ。
生産者が価値が創り出すのは消費者がいるからである。
日本が近年、失敗続きなのは、
生産者によって消費を決定しようとする、
共産主義方式を採用していたからなのである。

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