SSブログ

私は「蟻の兵隊」だった-中国に残された日本兵(岩波ジュニア新書) [本(軍事]

『私は「蟻の兵隊」だった/奥村和一・酒井誠/岩波ジュニア新書/2006』
著者:山西残留問題の調査究明、業界紙新聞記者
評価:旧日本軍の混乱と戦後の実情を知る良書

肝試しとは、初年兵教育として中国人を刺殺すること。
こうして、人を殺せるようになるわけだ。

上官が恩を売る姑息な技法。
抜き打ち検査があった。何と乾パンがない。
連帯責任で、全員が殴られる。
その後、上官が"見つけたぞ、もう無くすなよ"といって手渡す。
ところが実はこの上官が隠していたのである。
靴や帽子でも、同じようなことが起こったらしい。
恩を着せるためとはいえ、実に姑息な技である。

兵士が死ぬのはほとんど結核らしい。
あらゆる時代において、兵士が戦場で戦死することは珍しい。
ほとんどの兵士は病死か飢え死にするのである。

中国で捕虜になると、
講話という政治教育がある。指導員の話を聞くという。
また相互批判もする。
さらに教育の方法としての坦白、
戦場で何をしたか具体的に告白するらしい。
こうしてみると素朴な技法で案外たいしたものはない。
とても洗脳だとか言えるようなレベルではないようだ。

著者は、帝国陸軍日本兵士であったが、
中国国民党日本人特務団兵士となり、中国人民解放軍捕虜となった。
復員するまでの軍籍を認めよというのが著者の主張。
対して、文書の命令書がないと命令ではなく自願とする国側。
天皇陛下のために戦い続けたのに、逃亡兵と呼ばれる腹立たしさのため
恩給問題として裁判をしているらしい。

かつての戦場では、
奥村氏と実際に向かい合って銃を撃ち合った相手と再会する。
戦場の記憶が一致したという。
驚くべき体験である。
その他、戦場での生々しい体験談も衝撃的である。

『日本兵捕虜は何をしゃべったか/山本武利/文春新書/2001』
著者:マスコミ論、情報史
評価:旧日本軍の情報管理のずさんさがわかる

捕虜は本名を名乗らない。
そのため、俳優の長谷川一夫が大量にいたこともあるという。
本名が日本に伝わるのを恐れているのだ。
そのため、本名を日本に伝えると脅すと効果的であったという。

捕虜は一日二日たつと喋り出す。
拷問されず待遇が良いのに驚き感謝するのだ。
十日以上たつと慣れてくるので内容もでたらめになるらしい。

『戦争犯罪の構造/田中利幸,編/大月書店/2007』
著者:広島平和研究所所長
評価:資料・分析データは面白いがその位置づけに問題あり

学術レベルでは標準の歴史分析が
なぜ大衆レベルで標準にならないのかとの疑問が冒頭に語られる。
戦時における憎悪と軍暴力という普遍的な枠組みで検討するという。

日露戦争以後におかしくなったという司馬史観の誤り。
日本軍は日清日露戦争の頃から戦場で虐殺を行っていた。
正しい。中世的軍隊の特性をそのまま引きずっていたのである。

疑問点。
中国側のいう三光作戦と
日本側の殲滅掃討作戦は同じでいいのか疑問を感じる。
またそれをドイツのアウシュビッツと同じに見るのも異常である。

奇怪な言葉も多い。
拉致問題支援者はなぜ戦前戦中の強制連行の苦悩を考えないのかという。
全く別問題だから当然ではないか。

若者の殺人と暴力行為が頻繁なほど日本社会は閉塞したのかと問う。
全くの事実誤認であり問題外である。

冒頭の問いが、全くいかされていない本である。
"戦時における憎悪と軍暴力という普遍的な枠組みで検討"など
全くなされていない。

戦争とは何かを理解せず、ただ日本軍の戦争を研究するからだ。
軍隊が戦場でどのように振る舞うものなのか、
世界中の戦争を研究し、比較するべきである。

事象を分析するには、
(a).その出来事を描写して客観と主観を入れ替える
(b).過去の出来事から一貫性を読みとる
(c).類似する例を比較して共通性を読みとる
(d).内部の構造から必然的なシステムを取り出す
(e).未来を推定しその分析の持つ力を確認する

(a)~(e)の5つが必要だが、
この本で採用されているのは(a)、(b)、(d)の3つであり、
(c)と(e)が欠けている。
だから何がおかしいのか見えないのである。

・今日の一言
我々は逃亡兵ではない。
We are not deserters.
우리들은 탈영병이 아니다.
我们不是逃兵。

nice!(2)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 2

コメント 2

Baldhead1010

軍隊という組織は変な方向にどんどんエスカレートします。
by Baldhead1010 (2007-08-31 10:07) 

Kay-akira_Hirota

軍隊は戦争しなくても怖いところですね。
by Kay-akira_Hirota (2007-09-01 00:27) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。