SSブログ

自然主義の人権論-人間本性に基づく規範 [本(法律と犯罪]

『自然主義の人権論/内藤惇/勁草書房/2007』
著者:法学
評価:進化生物学の人間理解から人権を導き出す・野心作

『自然主義の人権論』 (小田中直樹[本業以外]ネタ帳)で発見。
面白そうなので読んだら、大当たり。

今までの人権論とは異なる新しい人権論。
進化生物学の人間像から配分的人権論を展開する。

人権とは?
人間がただ人間であるということにより有する権利。
生まれながらに持っている権利である。
アメリカの独立宣言とフランスの人権宣言により、明確に宣言された。

事実と規範の二元論。
"である"から"べき"は導き出せない。
事実から規範を導出する誤謬、自然主義的誤謬を越える方法はあるのか。

それが"目的達成のための手段的合理性"論法である。
目的実現の合理的手段として"べし"が正当化されるのである。
人間に関する普遍的事実の組み合わせから
規範を導くことができるのだ。

ただし、哲学的には、事実と価値は区別できないという考えや、
そもそも人間は事実を認識できず、
認識できるのは価値のみという考えもある。
私は後者を推している。

著書では、今までの人権論を論評した後、
進化生物学の観点から、人権を生む土台というべき感情を考察する。
ジョンストンの感情の意味、恐怖、怒り、嫌悪、驚きなどが挙げられる。

このあたりは、私の著書HPの方が詳しい。
各感情を整理して
その感情間の発達関係を系統図化したのは今のところ私だけだろう。

国内における繁殖資源獲得機会に大きな格差のある例として、
奴隷制と植民地支配が挙げられる。
新の王莽は飢饉と経済失政の後の農民反乱で倒れた。
その後に後漢を建国した光武帝は奴婢を解放し、
奴婢と良民の平等を宣言しているのだ。
あまりに大きな格差を解消するため、底辺の底上げをしたのである。

徳川家康の言葉、
"百姓は生かさぬように殺さぬように"
これはまさに支配層の利益最大化の方法として計算されたものという。

家康は、あの安定した江戸時代を作り、
平和と安定をもたらした英雄なのに
人気がいまいちなのはこういう言動のせいかも。

ポール・ルービンは、
一夫多妻で配偶にあぶれた男性とテロの関係を指摘する。
面白い考えである。
すると、サウジアラビアを支持するアメリカは
間違っているというべきかもしれぬ。

19世紀のスウェーデンの人口は300万から400万人。
ところが年平均38000人もの移民が発生していた。
これこそが、スウェーデンの高福祉政策の理念もとであるらしい。

著者は、人権とは繁殖資源の分配方法の合理性の問題と考える。
身分制とは、繁殖資源を固定して配分する方式。
君主制とは、人為による分配の方式。
それよりも、
人権のルールに基づいて繁殖資源を分配する方が合理的とするのだ。

生命、自由、幸福追求権、学問の自由、教育、労働、
人身の自由なども繁殖資源分配のためのルールである。

合理性とは社会が安定し、繁殖資源の効率性を高めるということだろう。
このあたり私の著書の最終章や、HPで提示する、
感情充足社会こそが安定社会であるとする考えと似ていて面白い。

著者が提示するのは、脱・価値論の配分的人権論。
人権を集団/国家内の配分原理とする。
だから国家の存立に抵触する人権の行使は制約できるとする。

すると人権について言われる前-実定法性、
人権は法の規定に先立って成立しており、
憲法はそれを後から確認したものであり、
人権は国家にも先立つとする考えは否定されるのだろうか?

これは人権が時代によって変化することを意味するだろう。
配分原理であるから、配分できるものが大きくなるにつれて、
人権もまた大きくなる。
生活の保障、教育を受ける権利など、
社会の発展とともに新しく生まれた人権なのだろう。
考えてみれば、原始時代に教育受ける権利などあろうはずもない。

これは国家や文化により人権が異なることではない。
文化相対主義ではないのだ。
しかし、人類全体の科学技術や経済水準によって、人権は拡大する。
人権は、そのときの可能性によって大きさが決まるのだろう。

これはさらに将来、
動物権やロボット権といった方向へ拡大することも考えられ、興味深い。
まあ、"人"権じゃないけども。(笑)

・今日の一言
人権とは資源の分配ルールである。
Human rights are distribution rules of resources.
인권는 자원의 배분 규칙이다.
人权是资源的分配规则。

nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(1) 
共通テーマ:

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 1

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。