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死者の棲む楽園 [本(東洋史]

『死者の棲む楽園』
伊藤清司(中国古代史、民族学)
角川書店(1998)


古代中国の死生観を知る良書。とても面白い。

魂:陽気で精神であり天に帰すもの。
魄:陰神で肉体を作り地に帰すもの。

魂魄は精神と生命の関係と言えるだろう。
脳現象が精神=魂、遺伝子現象が生命=魄と考えてはどうか?

曹丕が民間説話を集めた『列異伝』
曹丕っていろんなことをしてるよな。

前漢末から後漢初に泰山が冥界と考えられるようになった。
『風俗通義』によると、泰山の黄金の箱があり、
玉製の札に寿命が書かれているという。
そこにいる二人。生死を司る司命神の北斗と南斗。
魂を回収するのが北斗で、授けるのが南斗。

泰山を中心とした冥府のネットワーク
泰山と華山は本店と支店だという。
175年長安に泰山冥界の信仰の記録が残っているらしい。
泰山南麓の石閭山は方士の間で僊人の村と評判であった。

封禅の意味。
秦の始皇帝も漢の武帝も不老不死の獲得が隠れた目的だった。
武帝が玉策を見たのは神が舞い降りる泰山山頂だろうという。

光武帝の封禅は百官ともに行った。
二日後に梁父で后土を祀って封禅を終えるた。
統一の事業の完成を天に報告しただけである。
対して、武帝は封禅で登僊を祈った。仙人になろうとしたのである。

仙人には3パターンある
天仙:生きたまま肉体を伴って昇天
地仙:名山大岳に住む
尸解仙:肉体をこの世に遺したまま仙人になる
黄帝にはその佩剣を埋めた衣冠塚があるという。

村落共同体への仲間入りする成人戒。
山野を渡り歩き、山頂への登坂、籠もり居を続ける。
高峻な山岳には気が充ち満ちており、神的エッセンスがあるという。
始皇帝の宮女毛女が、170年以上華陰の山中に棲んでいた。
仙人伝説である。

崑崙山に住む西王母の変遷。
六朝では容姿端麗な美姫だが、
本来は豹の尾、虎の牙、蓬髪に玉製のかんざしの洞穴に住む異形の神。
天災や疫病を主管していた。
西王母は縦目の人、外来の救済の神、お守り札が不死の呪符になった。
建平四年には西王母信仰騒動があった。
原始道教というべきかもしれぬ。

このとき使われた六博も碁。これは占いの道具。
なるほど王莽末年に六博を説く女性の反乱があったが、
これも宗教反乱のようだ。

崑崙山には、不死になる霊芝草、不老になる神泉があるとされた。
崑崙山って、どこだろ。イメージ的にはK2か?

角抵戯=相撲は漢代に流行した。
漢代は武が貴ばれた時代である。

古代は亡霊が信じられていた。
唐の宮廷には、亡霊を見る見鬼人という役職があった。
漢代にも亡霊を見分ける巫がいた。

そうした人たちが使う技は多く手品である。
欒大の闘棋術というのがある。
コマが自分で闘うのだが、これは磁石によるものらしい。

方士の秘術の例
・沸騰する釜の湯の中に銭を入れ素手で取り出して火傷しない
・茅葺きの屋根の上で火を焚き鶏が煮上がっても茅は焦げない
・刀や矛に呪いすると刃先を腹に立て上から木槌で打っても、
 刃は曲がり腹に刺さらない、
・釜を真っ赤に焼きその上に長時間立っても平気
・大勢の人々を座らせたまま立ち上がれないようにする

最初のは、釜には発泡を促す薬物を入れる手品である。
最後のは明らかに催眠術だ。
腹に刀が刺さらないのもよくある大道芸である。

『漢字の知恵』
藤堂明保(中国語学)
徳間文庫(1989)


漢字の雑学。

外来語がそのまま名詞以外になったケース
漢語の形容詞化・非道い
漢語の動詞化・力む
英語の動詞化・サボる
英語が動詞になったのは少ないよね。

元の漢語の意味と全然変わってしまったもの
遠慮:遠い先の心配
迷惑:迷うこと
稽古:古い時代を静かに思い出すこと
留守:遠征軍の後の城を守ること
大丈夫:一人前の男のこと
漢字を見れば、日本語としての意味が変なのは確かだ。

油断、気配、物騒は当て字。
確かに中国人には通じない。

"油断一秒,怪我一生"という工場の標語も、
中国語で読むと、
"油が一秒でも途切れたら、一生俺を責め続けてくれ"
というとんでもない意味になる。

『漢字と文化』
藤堂明保(中国語学)
徳間文庫(1976)


非常に面白い良書。漢字と歴史文化のつながりがわかる。

金瓶梅に亀卜の話がある。
民間習俗として亀甲占いが明の時代にも残っていたらしい。

孟子の唱えた500年聖人出現説。500年ごとに聖人が現れるという。
周の文王、姫昌の殷周革命は紀元前1027年頃とされる。
その500年後は孔子(前551~前479)である。
では、その500年後は?
どうやら、ちょうど光武帝(前6~後57)になるようだ。
いや、年齢的には、王莽(前45~後23)がぴったりだけど。(笑)
さらに次の500年後は?
これは唐太宗李世民(597~649)だろう。
あるいは隋文帝楊堅(541~604)かな。
さらに次の500年後は?
宋太祖趙匡胤(927~976)かな?
弟の太宗趙匡乂(939~997)の方が聖人っぽいかな?
後周世宗柴栄(921~959)もいいかな。
いっそ王安石(1021~1086)を候補に挙げるか?
さらに次の500年後は?
うーん、わからん。1500年前後の天命を受けた聖人って誰だ?
残念ながら、清の康煕帝(1654~1722)は年齢が合わないのよね。
そして2000年前後も出現するのかねえ。

詩経で禹に9回言及するも、堯舜は出ず。
堯も舜も治水に関係なし。
堯も舜も普通名詞だ。
堯=丘のように高い人で、舜=身体の俊敏な人なのである。

また堯舜の家臣は各王朝と地方の国々の祖神である。
伯禹は夏、棄は周、契は殷、伯益は秦と趙、伯夷は斉、キは隗。
後から儒家が考えて各地方の神々を集合させたらしい。

12支は前漢の頃に既に民間に存在した習慣という。
甲乙丙は植物の成長段階を示す。

漢方の考え方は、外気、飲食、精神状態の安定したバランスがあれば、
邪気は生じないという。バランスの健康医学である。

漢方の古典、素問は生理学で、霊枢は病理学という。
素問の薬の用法は、1つのみ五穀のスープと甘酒しかない。
本草は後漢以降に生まれたものらしい。

王符の『潜夫論』に人参の記述。
いわゆる朝鮮人参の薬効はこの時代から信じられていた。

『潜夫論』に記載される呪術
土公、飛尸、咎魅、北君、銜聚、當路、直符の七神。
どんな呪術か気になる。土公ってモグラ?
飛尸って、死体が飛ぶの? キョンシーか?

史官は神に事実を報告するもの。
だから君主に脅迫されても記述を変えないのである。

顧炎武はその書で、後漢こそ士人の自覚が最も高まった時代とする。
東漢の士風の厳しさは中国史上空前絶後という。
東漢=後漢は、古代中国のピークといってよい。

『易経の謎』
今泉久雄(東京電力)
光文社カッパブックス(1988)


ニューサイエンスの易研究。まあ偶然の一致ですな。

易を宇宙のコード・ブックに見立てて先端科学の発見に重ね合わせる。
易は64卦からなる。DNAの遺伝暗号は全部で64。
遺伝暗号は3つの塩基の組み合わせ。易の八卦は3本のコウからなる。
この一致が面白い。

老子:物事はすべて相対的
(故有無相生,難易相成,長短相形,高下相傾,音聲相和,前後相隨)
本では相対性理論と対応させているが、
言語学のソシュールに対応させるのが適切かも。

君子は何も起こらないときに易の卦を玩味しことが起こって初めて占う。
易をアフォリズムの集合と捉え、自己を検討するのである。

だから、荀子は易を体得したものは占わないというわけ。
(善為易者不占)

『老荘と仏教』
森三樹三郎(中国哲学史)
講談社学術文庫(2003)


中国の思想史がとてもわかりやすい良書。

老子の思想
老子は孔子の教えへのアンチテーゼ。
老子の小国寡民は現存の村落共同体・ユートピアではない。
老子は無政府ではなく高度な政府を要求している。
老子は意志による禁欲主義ではない。意志を働かせるのは禁物。
老子は無為自然の立場から不老不死に反対。

荘子の万物斉同の境地はあまりに到達困難だ。
そこに禅宗や浄土教が解決法を提示した。
また、儒教の道徳と禍福の不対応の問題。
なぜ善行をしたものが報われないことがあるのか。
これに解決を与えるのが仏教の三世報応説。
これらが仏教が受け入れられた理由である。

無は有を否定する無ではなく有無の差別を否定
一切の相対差別を否定しつくす絶対無差別だという。

あれ? 仏教の無は、あくまでも有に対する無で、
老荘の無とは異なると聞いたが……

清末の章炳麟はいう。
中国の徳教は、自分によるもので他人によるものでないという。
自分で解決するのが中国思想の考えである。

『遊民の系譜』
杉山二郎(美術史)
青土社(1988)


軽業師の東西交流を知る。

仏寺の法会には放浪芸能者集団が現れる。
玄宗の前での道教方術士羅公遠と密教渡来僧不空三蔵の魔法比べ。
インド魔術と中国方術の対決である。

日本のジプシー傀儡子。その音は朝鮮の広大と同源という。
クグツシとクゥァンデ、似ているかな。

傀儡子は漢代以前より葬送儀礼に関係していた。
木偶が副葬され、木偶で歌舞唱和した。
傀儡子は禿頭だったらしい。

仏像建築など大規模募金運動に放浪芸人と組んだ日本の僧侶。
芸人を使って人を集めて募金を募るのはいつの時代も有効である。

ジプシーはエジプシー。
十字軍のときエジプトから来たと称したという。
言語がインド系であり、民族もインド系らしい。

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